子どもの感情表現は大人とのやり取りの中で育つ

私たち大人のほとんどは、自分自身が昔した生誕の苦痛や乳幼児期の不快感を忘れてしまっています。
子どもは危機や不快感を泣くことによって表現しますが、
周りの大人は子どもの泣き声から子どもが感じている危機や不快感を察知して、それらを取り除こうと手立てを考えるでしょう。
その際、私たちはまず、泣いて危機や不快感を訴えている子どものそばに寄り声をかけ、その子の状態をわかろうと努めるのではないでしょうか。
たとえば、転んで泣いている乳児に、私たちは「大丈夫?」とか「痛かったね?」といった言葉かけをしますよね。
受け止めようとする親の声音や態度が伝わると、子どもは落ち着きます。
こういった大人の姿勢や言葉かけは、子どもを受け止めようとする姿勢と不快感を和らげようとする気持ちの表現でもあります。
子どもは、生命を脅かすことに対して怒り、喪失(受け止められないこと)に対して悲しみ、危険に対して恐怖などの感情を表現をしますが、
その表現がまわりの人にうまく伝わり受け止められることで、子どもは、その表現でよかったことを学び、気持ちを伝えることに積極的になっていくのです。
大人と感情

大人になっても、様々な喜怒哀楽、たとえば、嬉しい、悲しい、疲れている、落ち込んだ、緊張した、腹が立ったなどを感じてよいし、どの感情も表現してよいのです。
たとえば、旅行中にいつも仲間と同じ行動をする必要はなく、他の仲間が外に遊びに行く計画に賛成していても「疲れたから、私はホテルにいる」と言っていいし、友人からの誘いに「今日は気分が乗らないからやめておく」と伝えてもいいのです。
「自己表現してもいい」という理解していると、人の意に反したことは言ってはいけないとか、困ったことを伝えたり助けを求めたりしてはいけないとは思わずに、どのように伝えるかを考えるようになります。
また逆も然りで、助けを求められたら断ってはならないとか、不快な気持ちを出してはならないという考えにもならなくなります。
自己表現をすれば「本当の自分の気持ち」がわかる

人を不愉快な気持ちにさせないように反論もせず、自分の不快な気持ちを伝えないで黙っていると、相手はあなたを理解するチャンスを失い、お互いが自分らしく付き合うことができなくなります。
もちろん、相手も自分の気持ちや考えを表現してもよいので、そこで葛藤が起こることもあります。
ただ、葛藤や違いが明らかになることを避けて、親、上司、先生に意見を言わなかったり、支援を頼めなかったりすると、その場は何事もなく進むかもしれませんが、誤解のある人間関係がつくられていくことになります。
実は、自分の気持ちや意見を言うと、自分の思いや考えがより明確になり、自己理解が進むという効果があります。
私は、カウンセリングの効果は、まさにこの自己理解が進むということであると考えています。アドバイスや指示を受ける訳ではなく、自分の気持ちを言葉にする、つまり「言語化」することで、これまで気づけていなかった自分の本当の気持ちを知ることができます。
ほとんどの場合、悩みや困りを解決する力は、その人の中に初めから備わっており、自己理解が進むことで悩みや困りを解決する力が養われていきます。

そして、他の人も同じように自己表現すれば、互いに自他の違いや類似点が見えてきます。違いや類似点が明確になればなるほど、互いの感じ方や意見を変えたり、相手に同意したりがしやすくなるというのもポイントです。
多くの葛藤の積み残しや未解決な問題は、互いに思いを分かち合わなかった結果起こっていることが多いものです。
むしろ、葛藤を恐れず自分が伝えることから相互理解が始まり、葛藤を一緒に乗り越えることで、かえって関係も深まることでしょう。
しかし、私たちには、これまでの人間関係の中で育った対人関係の築き方の癖や表現方法の癖があります。ですので「自己表現しよう!」と意識しても、なかなかうまくいかない場合があります。
まずは、日々の生活での人間関係(家庭、仕事、友人など)の中で、自分がどれくらい自己表現ができているかを考えることから始めてみてください。
居心地の悪さや不快感、しんどさを感じている関係性の中で、少しずつ自己表現する機会を増やしていくと、必ず変化が起こると私は考えています。