心理学

心の病気を抱える人をどう理解したらよいのか【職場・学校・家族】

心の病気を治すために必要な回復のプロセス

ライフキャリアと心の病気

近年、企業でもストレスチェックが行われるようになったり、産業カウンセラーが配置されたりと、勤労者のメンタルヘルスへの関心が高まりつつあります。

しかし、依然として、心の病気や疾病を患った方に対する社会の認識は「心の弱い人」「あの人はダメだ」といった認識が根強くあるように思います。

たとえば、うつ病は、脳で働く神経の伝達物質のはたらきが悪くなるのと同時に、ストレスや身体の病気、環境の変化など、さまざまな要因が重なって発病すると考えられています。

また、何らかの過度なストレスが引き金になって起こることもあると考えられており、「身近な人の死」「リストラ」などの悲しい出来事だけではなく、「昇進」「結婚」といった嬉しい出来事などの環境の変化から起こることもあります。

回復の道のりは登山と似ている


心の悩みや問題の解決に至るまでに歩む道のりは、人によって千差万別です。

その人の性格や気質病状の程度環境的な要因(周囲のサポート)など様々な要因に左右されます。

私は、心の病気や症状の回復のプロセスを「登山」に例えることがよくあります。

頂上(回復)に向かって出発するとしても、標高何メートルから登り始めるのか(病気や症状の程度)、ガイドの有無(治療者の存在)、どのルートを選ぶか(治療法の選択)、登山の装備(性格や気質・周囲のサポート)など、その方法は人によってまちまちです。

また、登山の途中では天候の変化によって足止めを余儀なくされることがあるように、病気や症状が改善していたのに急に悪化したり、元の状態に戻ってしまったりすることが往々にしてあるため、必ずしも右肩あがりに回復していくとは限りません。

そして、病気や症状の回復には、心の悩みや問題を抱える方の力のみならず、その人を支える周囲のサポートがどれだけあるかも大きく関わっています。

心のゆとりを取り戻す


病気や症状の回復プロセスは、人それぞれであり、様々な要因が影響していることをお伝えしましたが、心の病気の回復を目指す人に共通しているプロセスもあります。

それは、最初の段階で(登山の前に)「心のゆとりを取り戻す」というステップです。

うつ状態の多くは、十分な休養と適切な治療があれば、完全に治るとされており、ぐっすりと眠れ、食事が美味しく感じられ、退屈を覚えるとともに、徐々に元気が出てくる‥そんなプロセスが必要となります。

まずは、ゆっくり話が聴ける環境を整え、病気や症状を抱える人が「ホッと、ひとやすみ」できることを目指して、話を聴くことを心がけましょう。

つらさやしんどさを抱える人を支えるコツ つらそうな人やしんどそうな人の話に耳を傾けるときには、その人が今まさに感じているつらさやしんどさをわかろうと努めることが大切にな...

「自信喪失」と「焦り」

これまで身を置いていた環境(仕事や学校)から離脱してしまうという体験は、本人にとって大きな自信喪失となり、同時に「早く一人前に戻りたい‥」「すぐに復帰するんだ‥」といった焦りを抱かせます。

「自信喪失」と「焦り」いう2つの相反する気持ちの間で揺れ動いている状態だと、回復のプロセスで必要となる以下のようなポイントについて十分に検討(準備)することができなくなります。

  • 自分の病気や症状の特徴
  • どんなストレスに弱いかといった自分の弱点
  • ストレスの状態に置かれた時の対処法
  • 仕事や学校に戻った場合に起こりうる事態への対処法

ですので、まずは、本人が「自信喪失」や「焦り」などの気持ちを感じていることを理解しようと努め、そういった気持ちの整理ができるような環境を整える必要があります。

本人を支える周囲の方々には、本人に寄り添い、「だれもが感じる自然な気持ちである」ことを伝えながら、まずは「病気に関する正しい知識を持つことが大切である」ということを伝えていただきたいです。

また、本人が自分の弱点となる刺激やストレスについて整理し、今後、同様のストレス状況下におかれた場合にどのように対処するのがよいか、その人なりの答えを持てるようになるまで待つことをお願いしたいです。

「社会復帰」ではなく「社会参加」という考えを


病気や疾病を克服して元の環境、あるいは新しい環境で活動することを表現する際に「社会復帰」という言葉が、よく使われるように思います。

「社会復帰」と聞くと、私は「元通り」「一人前に暮らせる」といった高い一線を越えなければならないという印象を受けます。

一方、「社会参加」のために越えなければならない線はなく、本人の力可能な援助の質や量によって「社会参加」の可能性が定まります。

本人とその人を支える周囲の人の元に笑顔が戻ってくるためには、

  • これまでの自分とは違う自分で社会に参加するという本人の心構え
  • 周囲の適切な気配り

の2つが合わさることが大切であると私は考えています。

迎える側の人の配慮


最後に、職場の上司・同僚、学校の先生・クラスメイトなどの受け入れる側の人たちへ向けてお願いしたいことがあります。

それは、本人が戻る前に一度、本人が気がかりに思っていることを十分に聴き出すことです。そして、可能な限り配慮を行ってください。

また、職場や学校に戻ってきた後にも、気がかりなこと、心配なことなどの話を職場で聴く役割を担う人を決めて、いつでも話せるようにすることが大切になります。

気の遣いすぎ、頑張りすぎ、自分で抱え込みすぎ、などの問題点について、指摘できるような間柄ができれば理想です。「無理しないように」が合言葉になればよいなと思います。

社会参加を進める4つのポイント
  • 病気や障害を抱える人のもつ「もろさ」や「傷つきやすさ」を理解しながら、それらを減らしていく工夫をする
  • その「もろさ」を持ちながらも、うまく生活する工夫を重ねる
  • 本人にとって良くない刺激を避けることができるような対策を工夫する
  • 本人を支える仕組み(ネットワーク)を組み立てること

迎える側になる方には、上記の4つのポイントを意識しながら、受け入れ体制を整えていただきたいです。

就労者のメンタルヘルスのこれから

産業領域で心理臨床(カウンセリング)に携わっていると、心の病気で休職を余儀なくされる方が少なくないことを実感します。さらに最近では、「まさかあの人が‥」「信じられない‥」と周囲からすると思いもよらない人が休職することも珍しくない時代になっています。

管理職への昇進(昇任)、部署異動や転勤などの職場環境の変化のタイミングは、大きなストレスをもたらしますが、こういった環境の変化は、私たちが感じている以上のストレスを心に与えているため注意が必要です。

近年、就労者のメンタルヘルス管理への警鐘が鳴らされるようになり、心の病気の予防のために、普段から自己管理やセルフケアを行う意識(習慣)を持つことが推奨されています。しかし、激務や厳しい環境の渦中にいると自分自身を客観的にみることが難しくなるため、そこまで意識が及ばないことがほとんどです。

そうして、周囲が気がついた時には、本人は「もうダメだ‥」と心身ともに疲弊しきって心の病気を発症してしまっていたり(ドクターストップ)、最悪の結果である「自死」を選んでしまう方もいます。

心の病気を患ってしまえばお終いということではなく、医療機関への通院やカウンセリングの活用を経て、以前と同じように仕事に復帰されている方は多くいらっしゃいます。

心の病気を経験した方は、心身の健康の大切さが身に染みて分かっておられますが、やはり休職するほど心身へのダメージを蓄積するような経験をしないに越したことはありません。

これからの就労者のメンタルヘルスにおいて、会社や職場全体のメンタルヘルス意識を高めることが大切になると私は考えており、そういった視点からの予防・啓発に寄与する問題提起や情報提供などをささやかではありますがこれからも続けていきたいと思っています。

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